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音楽家ヴォーリズ #7  音楽家・高木五郎(前篇)

2006年4月18日


昭和元年(1926年)
ヴォーリズ夫妻は汽船「日本郵船サイベリヤ丸」に乗ってサンフランシスコから帰国する途上、船上の楽団でバイオリンを弾くひときわ目立つ青年に出会う。
名を高木五郎といい、後にヴォーリズ自らの手で伝記を出版することになる人物である。
おりしも汽船の故障で帰港が遅れたため、ヴォーリズは多くの時間を彼と過ごすことになる。
ヴォーリズが船にあったピアノで賛美歌を奏でると、彼は即興的にバイオリンを重ね、二人は心ゆくまで音楽を楽しんだ。 親交を重ね航海が終わる頃、彼はヴォーリズの活動に共鳴し、その一員となるべく船を降りた。

夜間、映画館でバイオリンを弾き、英語とタイプライターを学んだ彼は、1年後、近江兄弟社でヴォーリズの秘書となる。
携帯用タイプライターとバイオリンをたずさえ、ヴォーリズに随行し、タイピストの仕事の他にも多方面にその技能と実力を現した。
兄弟社の中では合奏団を組織し、各地の伝道集会で彼のバイオリンは聴衆の心に響いた。

あるエピソードがある。 事務所に施主夫妻が訪れた時のこと、ヴォーリズは「住宅の基本は家族のためのものである」として、建築資金を出す主人が主張する応接室などよりも、家で長い時間を過ごす奥さんや、そこで育つ子どもたちのために、台所、居間、子ども部屋への配慮を主張し、施主である主人は大いに不機嫌になった。
一段落した時、ヴォーリズは夫妻を別室のソファーへ案内した。ソファの前にはピアノが置かれており、ヴォーリズが席につくと、静かにバイオリンをたずさえた高木五郎が現れ二人は演奏を始めた。
すると、かたくなになっていたご主人の顔がしだいに笑顔に変わり、その後、話は円滑に進んだというのである。

音楽が単に技術で奏でられるモノでなく、人格や心の現れとしていたヴォーリズ。
だからこそ、彼の建築もまた単に物体として存在するのでなく、そこに永遠なるものへの畏敬や、人の営み、暖かさが織り交ぜられ、優しさ満ちあふれていたのだろう。

        ・・・つづく

音楽家ヴォーリズ #7  音楽家・高木五郎(前篇)
音楽家ヴォーリズ #7  音楽家・高木五郎(前篇)

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